枕をば峙て聞くなり高野四郎 我れはまどろむ密厳浄土に
滴塵029
本文
枕をば峙て聞くなり高野四郎 我れはまどろむ密厳浄土に
形式 #短歌
カテゴリ #9.日常・生活
ラベル #高野山 #夜 #精神 #浄土 #引用
キーワード #枕 #高野四郎 #鐘 #まどろみ #密厳浄土
要点
高野山の鐘の音を枕元で聞きながら、まどろむ心象を描く。
現代語訳
枕を立てて、高野四郎の鐘の音を聞く。私はまどろむ。密厳浄土にいるようだ。
注釈
枕をば峙て(そばだてて)聞くなり:枕を高くし、耳を澄まして聞く。緊張感と集中を示す。
高野四郎:高野山の鐘の名前。
まどろむ:うとうとする、浅く眠る。修行の合間の安らぎ。
密厳浄土: 密教の教主である大日如来の浄土。清浄で荘厳な理想郷。
解説
日常的な睡眠と仏教的精神体験を融合。鐘の音が現実と心象の橋渡しをし、読者に精神の安らぎや密教的空間の感覚を伝える。
深掘り_嵯峨ほか
密教の聖地である高野山を背景に、修行と安らぎの境地を詠んだ歌です。
耳を澄ませて「高野四郎」(鐘の音)を聞いている(修行の教え、あるいは真理の音)という厳しい求道の姿勢にありながら、「我れ」は「密厳浄土」という究極の安息の地でまどろんでいるという対比。これは、現実の修行の厳しさと、その先にある悟りの境地の安らぎが、同時に存在していることを示唆しています。あるいは、世俗の自分と仏道に生きる自分という二つの自己を描いているとも解釈できます。
また「枕をそばだてて鐘の音を聞く」という光景は、白楽天の『香炉峰下新卜山居』の「遺愛寺鐘欹枕聴」を思わせます。余談ですが、この詩の次の句の「香炉峰雪撥簾看」は『枕草子』299段に書かれたエピソード、「かうろほう(香炉峰)の雪いかならん」と皇后に問われて清少納言が「簾(すだれ)をあげてみせた」という話で有名です。